CS支援センターの活動から
西ナイル熱蚊対策ガイドラインへの要望書提出についての経緯

 ウイルスによる「西ナイル熱」という疾患で、米国では昨年、約280名が 死亡しました。日本ではこの患者は発生していませんが、今後、発生することも 懸念されています。
 蚊に刺されることで人にうつりますが、人から人へはうつりません。 厚生労働省によると、感染した人の20%が発症し、発症者の1%が重症化して 脳炎などになり、重症患者の3〜15%が死亡に至るとのことです。発症率、 死亡率が非常に高いというわけではありませんが、ワクチンや治療方法が ないなど、警戒すべき疾患です。
 厚労省は西ナイル熱を感染症法に基づく「4類」に指定して、ウイルスを 媒介する野鳥のサーベイランス(監視)などを行っているとのことです (鳥から直接人へはうつりません)。

 この疾患の対策の一つとして、厚労省が蚊対策の「ガイドライン」を作成し 都道府県へ通知することが、6月3日付読売新聞で報道されました。この記事で 「患者発生時やカラスなどからウイルスを検出した時は、まず10キロ四方を 目安として、下水管や木の茂みなどに殺虫剤をまき成虫を駆除。空中散布も 検討する」などと書かれていたため、CS発症者の方々から「西ナイル熱対策の 名目で、生活環境が農薬づけにされるのでは」と、心配する声が次々に CS支援センターに寄せられました。

 そこで、このガイドラインを入手し、また、担当の結核感染症課に話を うかがい、他の団体とも意見交換しました。その結果、 ガイドラインは次のような問題があると考えました。
1)ガイドラインを作成した厚生労働科学研究班のメンバーは感染症研究者やPCO(害虫防除業者)関係者が多い半面、化学物質による健康被害に詳しい専門家がいない。このため、PCOの考え方が色濃く反映されているのに対し、殺虫剤による健康被害の恐れについて触れられていない。
2)厚生労働省側は「ガイドラインは殺虫剤の使用を推奨するものではない」と 説明しているが、たとえ厚生労働省の意図がそうであっても、このガイドライン の内容や表現では、自治体側はその意図通りには受け取らず、殺虫剤に依存する 恐れが大きい。

 そこで、農薬問題に詳しい「反農薬東京グループ」とともに、賛同団体を 呼びかけ、共同で要望書を提出することにしました。呼びかけや要望内容の検討について、非常に限られた時間しかありませんでしたが、皆様のご協力によりまとめました。6月10日に厚労省へ提出し、担当者結 (核感染症課の課長補佐ら)と討議しました。

 厚労省側は「昔は日本脳炎という蚊を媒介する病気があったが、今は なくなったことから、蚊対策として明示されたものがなくなった。その結果、自治体などで日常的な蚊対策が行われなくなった。発症者が出た時、目安がないと、自治体によって何もしない、または、過剰なことをする、という恐れがある」と、ガイドラインの必要性を説明しました。
 私たちは、「蚊対策の名目で日常的に殺虫剤が散布されている地域もあり、健康被害を受けている人も多い。ガイドラインは必要だが、内容を見直してほしい」と主張しました。

 厚労省側は、「見直しをしても、同様な内容にしかならない」旨述べ、見直しには同意しませんでした。しかし「ガイドラインに『事務連絡』という書面を添付して、殺虫剤散布による健康被害が起きないよう注意喚起したい。事務連絡には、要望の内容も反映させたい」との説明でした。

 その後、6月12日の参議院厚生労働委員会で、谷博之議員(民主党)がこの ガイドラインについて「化学物質過敏症、喘息などのアレルギー患者などが、 空中散布について心配している」「添付資料に具体的な業者名などが掲載されているのは、いかがなものかという意見がある」などと質問をしました。
 CS支援センター事務局より結核感染症課長補佐に電話したところ、この質問が 一定の効果を挙げたようで、「この質問を受け、ガイドラインは同課の名前で配布するのではなく、厚生科学研究班の報告書として配布することにした。 また、注意喚起を含めた『事務連絡』は、『課長名による通知』に“格上げ” することになった」旨の説明がありました。

 その後、6月18日夜、同課より「ガイドラインを配布した」との連絡がファクスでありました。
 通知の内容について要望団体に相談するという話もありましたが、結局相談は ありませんでした。
 ガイドラインの表紙から「厚生労働省結核感染症課」という名前は消え、「厚生科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業『節足動物媒介性ウイルス に対する診断法の確立、疫学及びワクチン開発に関する研究(主任研究官:国立 感染症研究所ウイルス第一部 倉根一郎部長)』」「『ウエストナイル熱の媒介 蚊対策に関するガイドライン』作成に関する研究班(分担研究者:国立感染症 研究所昆虫医科学部 小林睦生部長)」 の、長い二つの名前が列記されました。

 有機リン系殺虫剤を並べ立て、これを使えとしているガイドラインを勉強したら、自治体関係者がウイルスが検出されたらただちに殺虫剤散布に走るのは目に見えています。
 厚労省はガイドラインそのものを見直すべきでした。
 課長通知の全文を紹介します。

健感発第0618002号
平成15年6月18日

各 都道府県
  政令市     衛生主管部(局)長殿
  特別区

厚生労働省健康局感染症課長

厚生労働科学研究で取りまとめられたウエストナイル熱の媒介蚊対策に関する参考図書の配布について

 平成14年度厚生労働科学研究において、「ウエストナイル熱の媒介蚊対策のガ イドライン作成に関する研究*」が行われ、今般、主任研究官より報告されたところであり、国内におけるウエストナイル熱対策に一層資するため、地方公共団体を始めとし、関係機関、関係団体にも配布することとしたところである。
 ついては各自治体においても、下記に留意の上、ウエストナイル熱の媒介蚊駆除対策の参考とされたい。
 今後とも、ウエストナイル熱の侵入に備えた地域における対策の推進をよろしく御願いする。

1 ウエストナイル熱の蔓延防止には、平素から以下のような媒介蚊対策を講じておくことが重要である。
 (1)蚊のサーベイランスを実施し、地域に分布する蚊の種類、生息場所等を十分に把握すること。
 (2)蚊のサーベイランスで得られた情報を基に、蚊の幼虫の育つ水たまり等の 環境を改善することにより、幼虫の発生源を無くし、成虫の発生を抑制すること。
2 ウエストナイル熱の流行拡大が懸念される場合にあっても、安易な化学物質の空中散布等では十分な効果が期待できず、過剰な化学物質の使用になることから、以下に留意する必要がある。
 (1)乳幼児等の家族を持つ住民の不安や環境に十分配慮すること。
 (2)感染症の蔓延防止の効果と化学物質のもたらす健康危害や環境影響を十分 に比較検討して対策を講じること。
(注)厚生科学研究費補助金の新興・再興感染症研究事業「節足動物媒介性ウイ ルスに対する診断法の確立、疫学及びワクチン開発に関する研究(主任研究官: 国立感染症研究所ウイルス第一部 倉根一郎部長)」における「ウエストナイル 熱の媒介蚊対策に関するガイドライン作成に関する研究班(分担研究者:国立感 染症研究所昆虫医科学部 小林陸生部長)」

19日、CS支援センター事務局が課長補佐に電話で質問した概要もご紹介します。

Q 課長通知はずいぶんあっさりとした内容だが。
A 弱者の代表として「乳幼児等」とした。妊産婦、アレルギーなど、対象となる人を全部挙げようとしても挙げきれない。「空中散布」も明示したし、 踏み込んだ内容だと思う。
Q 殺虫剤に安易に頼る傾向が強い中、きめ細やかな書き方にした方が良い。もちろん全部は挙げきれないが、「化学物質過敏症、喘息などのアレルギー、妊婦、肝機能が弱い人など、化学物質への感受性が特に高い人」と書いても、わずか2行程度しか増えない。
Q 通知内容について、事前にご相談をいただかなかったが。
A 反農薬東京グループのの辻さんには前日に口頭で説明した(辻さんによると、ウソだそうです。「よくもぬけぬけと言えるものだ」と怒っていました)。
Q 何部印刷したのか。
A 350部。
Q 増刷の予定は。
A ない。
Q 配布先は。
A 自治体だけで130部(都道府県や、政令市、東京23区、保健所を設置して いる大きな市)、その他、都道府県や大きな市にある地方衛生研究所、医師会、 獣医師会など。(情報によると、PCOへも55部)


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