会報「CS支援」第28号 (2005.12.28)

シックハウス 裁判で初の勝訴
  (CS支援センター事務局長)

 

 購入した新築分譲マンションがシックハウスだったとして、買い主が売り主の「ベル・アンド・ウイング」(東京都港区)に損害賠償など約5631万円を求めた訴訟の判決が12月5日、東京地裁であり、杉浦正樹裁判官は売り主に購入代金4350万円を含む約4791万円の支払いを命じました。シックハウスの訴訟では、初めての勝訴とみられます。
(略)
 これまでシックハウスの訴訟では、買い主側にとって勝訴的な内容の和解で解決した案件も少なからずあったということですが(「CS支援第27号」参照)、端的な勝訴判決が得られたことは、意義深いと思います。
(略)
 その一方で、債務不履行責任、不法行為責任は認められませんでした。この裁判では、買い主がすぐにシックハウスだと気づいて実際には住まなかったわけですが、これとは別の裁判で、住んでしまって健康被害が出てしまい、健康被害の補償を求める場合については、まだ課題がありそうです。

※全文は、会報28号をご覧ください。

ケミレスタウンプロジェクト 〜 千葉大学医学部教授にきく

 

 千葉大学医学部の森教授が中心となって、化学物質が少ない街「ケミレスタウン」を造ろうという、産学官連携によるプロジェクトが始動しています。NHKニュースで報道されたこともあって、多くの関心を集めているようです。筆者自身も関心を持っていますし、皆様も知りたいことと思いますので、ケミレスタウンプロジェクトの概要をご報告します。11月29日に都内で開催された市民講座でうかがった森先生のご講演内容や、森先生にお目にかかってうかがったお話などをもとに、まとめました。

※この続きは、会報28号をご覧ください。

慢性疲労症候群における化学物質過敏症状  〜 医療法人社団小川クリニック医師にきく

 

 「慢性疲労症候群(CFS)」を診療されている小川クリニックの先生が、CFSの患者で化学物質過敏症状が出ている方の症例についてお教えくださいました。「化学物質過敏症」「CFS」「線維筋痛症」の三つの病気は互いに似ている部分があることについては、従来から指摘されています。先生に、診療の概要について、うかがいました。

※この続きは、会報28号をご覧ください。

保土ヶ谷高校シックスクール 生徒4名に症状、教員の発症者は3名に
  (CS支援センター事務局長)

 

 神奈川県立保土ヶ谷高校の、雨漏り改修工事によるシックスクール問題について、前号の会報で報告いたしました。
 その後、同校の主催により、11月24日に筆者がシックスクールについて、主に人権の観点から同校教職員の方々へお話しする機会をいただきました。また、12月3日には、大勢の生徒に影響が出た5月以降、4回目となる、県教委による保護者説明会が同校で開かれました。
 これらの機会を通じて分かったことは、事故や被害の全体像がまだ明らかになっていない一方で、県教委の「安全宣言」により、問題は表面上「収束」に向かっていることです。

生徒4名に症状
 5月に学校医らにより、全校生徒対象の健康診断が行われ、その結果、26名が国立病院機構相模原病院で診察を受けたことについては、前号の会報で報告しました。
 相模原病院での診察の結果、26名中、1名がシックハウス症候群、また、2名が要経過観察との結果で、23名は問題なしだったそうです。
 これに加えて、26名以外の生徒1名に症状が出ており、自主的に北里研究所病院で診療を受けたところ、要経過観察との結果だったそうです。前号の会報で、筆者は「シックハウス症候群、化学物質過敏症について、多くの医師は知識を持っていないため、全校生徒を対象とした健康診断で見過ごされた生徒がいるのではないか」と指摘しましたが、その心配の通り、この生徒は見過ごされていたのでしょうか? それとも、健康診断の時点では、まだ症状はなかったのでしょうか?
 しかし、保護者説明会で県教委の学校教育担当部長は、相模原病院でシックハウス症候群または要経過観察との診断を受けたのが3名であることは公表しましたが、自主的に北里研究所病院で受診した1名については、まったく触れませんでした。不祥事を起こした立場として、被害をなるべく小さく見せたいという意図が働いているのでしょうか。

教員の発症は3名に増加
 また、これまで教員の被害者は2名が知られていますが、新たに1名の教員が、北里研究所病院で「化学物質過敏状態」と診断されました。しかし、このことについても、保護者説明会で県教委からの説明はありませんでした。
 それどころか、最初に発症した教員2名は雨漏り補修工事を行った天井の直下にある「北棟」3階で授業をしていたのに対して、新たな1名はその下の2階で授業をしていたので、雨漏り補修工事と症状との因果関係は不明である旨、県教委側は言及しているとのことです。
 3人目の先生は、北棟2階の各教室では症状が出ますが、他の場所では症状は出ないそうです。しかし、これまでの混乱で失われてしまった生徒の実習の機会を取り返したいとして、症状が出る北棟2階で頑張って授業されているそうです。この先生の症状が悪化しないか、とても心配です。

汚染はなくなったのか
 対策工事が終了し、「学校環境衛生の基準」が基準値を設定している6物質とTVOCを測定したところ、すべて基準値などを下回ったとして、学校教育担当部長は保護者説明会で何度も「安全宣言」しました。しかし、本当に汚染はなくなり、今後も汚染の心配はないのでしょうか。
 5月と6月に6物質を測定したデータによると、北棟2階の教室(3人目の先生が授業をしている隣の部屋)の濃度は、すべて基準値以下で、他の教室と比べて特に高くはありませんでした。現在も同じ状況だと仮定して、にも関わらずこの先生が北棟2階で症状が出るということは、これら6物質以外の測定していない物質による汚染があるのかもしれません。
 先に発症した2名の教員と同じ「芸術科」の先生は、「今回の原因物質はキシレンだと言われている。しかし、杉並病の原因の一つとも考えられている、毒性が極めて強いトリレンジイソシアネートなどが、雨漏り補修工事で使われた防水剤に含まれており、これが体調悪化の本当の原因なのでは。工事で使われた材料のチャンバー試験はすでに行われているが、トリレンジイソシアネートなど毒性が強い物質は分析されていないので、これらの検査、分析をすべきです」と主張しています。しかし、県教委は「専門家に相談したところ、意味がないとのご意見だった」として、これを拒否しています。
 “事故発生現場”の北棟3階の音楽室などを、見せていただきました。排気ダクトを設け、汚染された内装も取り替えたのことです。音楽室などの天井スラブの下には、汚染物質が降りてこないようフィルムを張ったとのことでしたが、教室の天井の中央に梁が突き出していました。梁は天井スラブと一体なので、梁の部分にはフィルムを張ることは不可能です。スラブ内の汚染物質が、梁の中を移動して教室内に降りてくる恐れはないのでしょうか。

発症者のフォローを
 第1回の保護者説明会では体育館を埋め尽くすほどの保護者が参加しましたが、第4回では20人程度でした。保護者の関心も薄まっています。シックスクール被害が起きた他校では、当初大騒ぎになっても、次第に関心が薄れ、シックハウス症候群・化学物質過敏症という病気への理解不足などから、必要な配慮を得られなかったという例もありました。
 保護者説明会では、事故原因や責任の所在について、なお調査中と説明されました。保護者からは「原因などが分かったら、もう一度説明会を」との声もありましたが、学校教育担当部長は「問い合わせには答える」などとして、開催しないと断言しました。このまま関心がなくなっていくことを、県教委は期待していると言ったら、うがちすぎでしょうか?
 県教委によって「安全宣言」された保土ヶ谷高校ですが、症状を訴えている生徒や教員にとっては、現在の校舎は安全とは言い切れません。発症またはその疑いがある生徒や教職員のフォローや、発症が疑われる生徒・教職員が新たに判明した場合の対応などを、関係者が一丸となって行える万全の態勢をとっていくべきです。

 

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