会報「CS支援」第25号 (2005.6.28)

総会記念フォーラム 「化学物質過敏症をいやす・予防する伊豆へ」(上)

 

 当センター通常総会記念フォーラム「本物の健康を取り戻そう〜化学物質過敏症をいやす・予防する伊豆へ」を5月28日、伊豆市修善寺中央公民館で開きました。「あいあい姫之湯」の地元の皆様に、化学物質過敏症を知っていただくことを目的に、柳沢幸雄先生、中井里史先生のご講演のほか、当センターから報告を行いました。要旨を2回に分けて掲載いたします。

※この続きは、会報25号をご覧ください。

省庁と意見交換 CS、シックハウスへの取り組みの現状

 

 当センターからお願いし、(特非)市民がつくる政策調査会の主催、「私もCS患者」とおっしゃる櫻井充参院議員のコーディネートにより、厚生労働省、国土交通省、文部科学省の担当者との意見交換会を5月16日に参議院議員会館で行いました。その概要をご報告します。限られた時間の中での意見交換でしたが、今後とも、各省庁に働きかけていきたいと思います。

1.各省庁の取り組みについて説明
1)厚労省健康局生活衛生課生活衛生対策企画官
 平成12年以降、シックハウス対策関係省庁連絡会議を設置して、情報交換や進捗状況の取りまとめを担当している。その関係でこれまでの対応についてごく簡単に説明する。

研究は今年度が区切りに
 まず、シックハウス症候群とは、住宅の高気密化等が進むに従って、建材等から発生する化学物質等による室内汚染と、それによる健康影響というとらえ方をして、その中の機序としては、中毒によるもの、アレルギーによるもの、その他明確でないものがあるという認識を持ちながら、現在対策を進めている(6〜8頁の「シックハウス対策について」参照)。
 この問題は様々な要因が複雑に関係していて、一つの切り口だけでは対応できないものであるという共通認識は国として持っている。
 厚労省の主な取り組みについて簡単に説明する。
 「1.調査研究の実施」。アについては日本の6カ所の地域、北海道、福島、名古屋、大阪、岡山、北九州地域で住宅とそこに住んでいる方たちの調査をしていただいている。この研究は今年度(17年度)まで行う。
 イについては微量化学物質について詳しく調査研究をしていただいている。QEESI(化学物質過敏症発症者を選別するためのアンケート)の有効性の調査や、化学物質過敏の方々の臨床検査の方法について研究していただいている。これも今年度まで行う。
 ウについて、安藤先生は家庭用品などの発生源についての調査を中心にしていただいている。内山先生は、室内環境濃度と生体指標(尿・赤血球など)の関係について調査研究していただいている。
 エは、これまでの研究成果等について、今後の研究方向についての取りまとめをお願いしている研究班。昨年2月、厚生労働研究の知見のとりまとめをしていただいて、報告書にまとめたほか、一般でも入手できるよう出版した。
 「2.相談体制整備」は、患者への支援の窓口の第一歩と考えている。
 イの研修会は毎年開催しているが、3月30日には、厚労省の研究班の代表すべてに集まっていただいて、これまでの研究の進捗状況を都道府県、政令市、東京23区の担当者の前で一日かけて発表していただき、情報共有、共通認識を培っていただくことを目指した。
 省庁連絡会議の事務局をしている立場から、各省庁の取り組みをまとめさせていただいた(別紙1)。総合的な対策を練っていかなければならないとの認識で関係省庁とともに努力をしているところだ。
 別紙2は、先に紹介した報告書の内容をまとめたものだ。

2)厚労省保険局医療課長補佐
 (当センターからあらかじめ説明をお願いしていた、健康保険について)「化学物質過敏症で保険が認められるのは、こういう検査」という対応があるわけではないが、健康保険上で認められているもので、おそらく該当する検査は、たとえば、アレルギー関連のIgE測定、ヒスタミンの測定、皮内パッチテストなど。
 新しい検査・治療方法・技術の保険適用を求める場合は、「診療報酬調査専門組織」の中の「技術評価分科会」に、一定のフォーマットに基づき各学会から申請していただいている。そのフォーマットには、安全性、有効性、普及性、経済面から意見や論文を付けていただき、審査させていただく。16年度の改訂のときに500ぐらいの技術が一気に申請され、18年度の改訂についてはこの夏以降に審査が始まる。

3)厚労省社会・援護局福祉基盤課予算係長
 (当センターからあらかじめ説明をお願いしていた、保育所の対策について)社会福祉施設には、保育所・幼稚園のほか、地域の児童館、児童養護施設、障害のある子どものための病院、障害者・高齢者施設などがある。これら社会福祉施設全般について、どう対策すべきか検討しながら対応を進めている。
 平成15年に日本建築センターに委託して、社会福祉施設における室内空気中化学物質の調査を行った。この調査結果を昨年3月、全国主幹課長会議で公表し、同時に、施設の日常生活の留意点として、換気や、新しい家具を買った時、改修した時に症状の訴えがあったら、よく調査して、できる限り環境を改善してほしいと話した。施設を建てる時の留意点としては、シックハウス対策として、専門家とよく相談して、竣工時の通風や換気について十分注意をと説明した。

実態調査も今年度が最終
4)国交省住宅局住宅生産課課長補佐
 平成12年度から住宅の空気中の化学物質濃度の実態調査を継続していて、16年度の速報版を5月10日に発表した(表1)。全体版は6月中旬に公表の予定だ。
 今回の調査の特徴は、改正建築基準法(15年7月)対応の住宅が初めて対象になったこと。6月以前(改正前)着工分も、7月以後(改正後)着工分も、ホルムアルデヒド濃度は下がってきていて、あまり有意な差は見られなかった。
 建築基準法改正後の住宅1349件を調べ、うち18件でホルムアルデヒド濃度が厚労省の指針値を超えていた。これらについて再測定を行っているが、建築基準法改正で義務づけられた24時間換気設備を作動させずに測定したり、暑い日に測定したケースが多く見られた。
 平成12年度に築1年以内の住宅で指針値を超えていた住宅について、その後8回の追跡調査を行った(表2)。ホルムアルデヒドは、冬は下がるが夏にまた出てくる。表面の塗料などに含まれているホルムアルデヒドはすぐ抜けるが、夏になるたびに建材の奥のほうから分解されて出てくるのではと考えている。
 実態調査は、今年度(17年度)が最終年度。建築基準法改正後に着工した1349件の住宅を16年度に調べたが、ほとんどが戸建て住宅で、マンションはまだ完成していないものが多かったので、今年度は特にマンションの状況を調べるために調査を行う。
 濃度低下は換気の義務づけの効果だと思う。17年度の結果を見ながら、今後の対応を考えたい。
 ここからは私の個人的な感想を少し自由に話させていただくが、一般対策としてはかなり進んできた。過敏症の患者さん方を考えれば、今後は個別に対応していかなければいけないのではと感じている。たとえば「この方はこの化学物質に弱いから、こういう住宅を作らなければ」ということが出来るように、建てる側が建材をきちんと選択できる環境整備が必要ではないか。厚労省、経産省、農水省などと一緒に検討していきたいと考えている。
 また、財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターでは、シックハウスに限らず住宅に関するいろいろな相談を受けている。シックハウスについては、年間400件前後の相談を受けている。業者からの相談も含まれていて、全部患者さんからではない。相談件数は減っているのではないかという感じを受けている。
 ちょうど1年前、同センターがシックハウス相談回答マニュアルを作り、全国各地の消費生活センターに配っており、インターネットからもダウンロードできる。まもなく2005年版の改訂をする予定だ。

5)文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課専門官
 文科省のシックハウス対策について説明する。
 厚労省による13種類の物質の指針値について都道府県教委に周知して適切な対応をとるよう指導している。その際、域内の市町村教委や学校への周知もお願いしている。
 厚労省による指針値設定を受け、学校における化学物質の室内濃度について実態調査を平成13年度15年度に実施した。この調査の結果を踏まえて「学校環境衛生の基準」に平成14年2月、新たにホルムアルデヒドなど4物質の室内濃度を検査事項として盛り込み、基準を超えた場合は換気など適切な措置を講じるよう指導している。平成16年2月にはスチレン等、2物質を検査事項として追加した。
 学校における室内濃度や過敏症としてのシックハウス症候群の児童生徒の現状等について調査研究のため、専門家等で構成する調査研究協力者会議を設置している。平成17年度も引き続き実施をしたいと考えている。
 化学物質過敏症の児童生徒への配慮として、まず平成13年1月に通知を出した。この通知の中で、厚労省より示された指針値を下回る微量な濃度の化学物質や、その他の化学物質にごく微量でも反応する過敏症の児童生徒については、その原因となる物質や量、当該児童生徒の症状などが多種多様であることから、各学校において養護教諭を含む教職員、校医等が連携しつつ、個々の児童生徒の実態を把握し、支障なく学校生活を送ることができるよう配慮して教育を行ったり、必要に応じて就学指定の変更を行うなど、個別の配慮をされるようお願いをしている。

「協力者会議」や教科書研究は継続中
 教科書については、過敏症の児童生徒の要望に応じて、天日干しのために教科書を早期に提供するとともに、平成15年より教科書協会に委託をして化学物質過敏症と教科書に関する調査研究を行っている。平成17年度も引き続き実施をしている。
 学校教育の機会の確保について、具体例として、症状によってやむを得ず指定された小中学校の通学が困難な場合、教委が相当と認める場合は指定を変更することができ、また、病状によっては、養護学校に転学したうえで、特別な配慮のもとに教育を行うこととし、特に通学して教育を受けることが困難な場合には、養護学校の教諭が自宅等を訪問して教育を行うことができることについて、さまざまな研修の機会を通じて都道府県教委等に指導をしている。
 施設整備上の留意事項の策定と周知をしている。都道府県教委等に対して学校施設の整備に際しては、室内空気を汚染する化学物質の発生がない、もしくは少ない建材の採用、および換気設備の設置等についての配慮、シックハウス対策に係る建築基準法改正等について指導している。
 学校施設における化学物質による室内空気汚染対策について、施設面での基本的な対策の考え方、具体的な対策手法についてパンフレットや報告書を作成し、都道府県教委等へ配布している。
 建築基準法改正等を踏まえ、学校施設整備指針を平成15年8月に改訂し、新改築や改修等においては、化学物質濃度が基準値以下であることを確認させたうえで建物等の引渡しを受けること等の対策について、記述を追加している。
 施設上の補助制度は、公立学校施設に対する国庫補助制度としては、校舎等の不足する建物を新しく建設する新増改築事業については補助率2分の1、構造上危険な状態にある学校建物を建て直す改築事業については補助率3分の1、既存建物の大規模な内外装の模様替えや用途変更を行う大規模改造事業については補助率3分の1として、その補助をする際にも室内空気を汚染する化学物質のない、もしくは少ない建材や工法等の採用、換気設備の設置に必要となる経費について、国庫補助の対象としている。

2.質疑応答
 CS支援センター事務局 建築基準法でホルムアルデヒドとクロルピリホス以外の規制は行うのか。また、個人的見解として、一般対策は進んだので個別対応が必要とおっしゃった。個別対応が必要なのはその通りだが、一般対策が済んだと言えるのか。ホルムアルデヒドは減っているが、建築基準法にのっとった住宅でもシックハウスの訴えはあるが。
 国交省 実態調査のみならず、いろいろな実験もしてきている。今年もう1年、実態調査と実験を継続して、それを踏まえて今後の対応を検討する。それが建築基準法の規制になるかどうかは分からない。目的は被害をなくすことだが、方法としては住宅性能表示制度の活用など、いろいろな可能性を考えていきたい。
 櫻井議員 換気設備義務化による効果はあると思うが、換気だけで良くなっているのだとすれば、すべての物質の濃度が下がっているはず。しかし、アセドアルデヒドの濃度が不変であることを考えると、ホルムアルデヒドを規制したことによる効果のほうが、はるかに大きいのではないか。
 また、国の規制によって、わずか数年間でホルムアルデヒドを超過した住宅を減らせたことを考えると、やはり国としてきちんとした対応を行うことについての検討が必要だ。民間の自主的な努力だけでは、ここまで改善されたなかったと思う。その点から考えると、より体に悪いと言われるアセトアルデヒドを規制するのかどうかが関心を持たれてくるのでは。
 国交省 私もまったく同じところに着目していた。アセトアルデヒドの超過率は、むしろ微増している。
 ただ、アセトアルデヒドについては指針値の妥当性について議論がある化学物質ではある。また、林野庁から調査結果が発表されているが、アセトアルデヒドは天然の木材からもかなりの高濃度で出てくる。それから、飲酒後の人間の呼気からは、人によって違うが指針値の80〜100倍のアセトアルデヒドが検出されることも実験で分かっている。こうした天然由来のものもあるのでは、と思う。
 先ほど申し上げたが、私どもはいろいろな実験をしている。塗料も接着剤も使わず、天然木材のみで内装を仕上げたモデル住宅を作って測ったら、アセトアルデヒドの指針値を軽々と超えてしまった。この実験については、近々公表の予定だ。また、木の種類の違いによるアセトアルデヒド濃度の違いも分かってきている。しかし、天然の木材を規制するのは考えられない。厚労省による指針値策定の推移やこうした実験の結果も踏まえて、どういう対策が良いのか考えなければならない。
 私どもが実験したデータはすべて公開しているので、いろいろな方に見ていただいて、いろいろなご意見をうかがって研究していただいて、より対策が進むようにと考えている。
 CS支援センター理事 いまの住宅建築は、一方で高気密高断熱をやって、一方で換気のための穴を空けるという矛盾したことをやっている。現場の工務店の人は困っている。実際には24時間換気は行われていないことが多く、濃度低下は規制のためだと考える。
 厚労省にお聞きしたい。患者は、こういう所に来れないから、僕らが代わりに来ている。2年前にも省庁との意見交換をやった。患者は、2年間、ずっと毎日苦しんでいる。化学物質過敏症だけでなく、病気の名前はつかないが病人だという人が、これからいろいろなところで出てくると思う。そういう人をちゃんとくくって健康保険対象にして、何とかしていく智恵を見つけないと、これからの病気には対応できないのではないか。「医者の責任だ」と言わないで、ちゃんと政府の責任として考えられないか。
 厚労省 非常にご苦労されている方がいるということを前提に検討している。政府として何かをするためには、やはりその方々が病気であるという、一定のコンセンサスが形成されて、初めて私たちが動けると考えている。原因物質の特定や、共通の検査等の所見について、研究者も悩んでいらっしゃるが、コンセンサスを作るのが私たちの役目だと思って進めていることをご理解いただきたい。別に先延ばししようと思って「研究、研究」と言っているわけではない。
 また、経済的に大変な状況になっている方の一歩手前の方についての対策の制度がないのが現状だと、私たちも理解している。その人たちを、どうコンセンサスを得て支援をするかも課題だ。
 櫻井議員 対策費は税金であり、税金を使うことは相当重いことであり、皆さんに納得してもらえる場合でないと使えないということを分かってくれと、厚労省は言っているのであり、それは理解できる。たとえば「具合が悪い」とおっしゃる方が、本当に化学物質過敏症のせいだと分かるような手だてがあって、なおかつ、こうやるとある程度有効だというものが出てこないと、なかなか国の最終的な政策として打ち出すことが出来ない。厚労省が「研究」という言葉を使っているのだから、「有効な手だてがあれば何とか予算措置をしていきたい」という意欲はあるのだと思う。その意味で、CS支援センターの旭川の方からお話をいただければと思うが、こういうやり方で良くなっているのだというデータを出していただいて、その有効性のデータも参考にして、国が取り組んでいければ良いとも思う。
 CS支援センター旭川支部 化学物質が極力少ないところに転地をして良くなれば、結果的に化学物質が原因で発症したと分かる。この検証を、研究者の皆様と一緒にやってきた。十何人かの結果を出させていただいたが、転地で良くなることは事実。この転地療養について、国からの何らかの関与が出てくると、われわれも、もっと幅広い活動が出来る。
 また、患者は外気にも影響されるので、室内空気改善だけでは救われない。だからこの問題は、環境政策であり、国の政策でなければならない。もともと空気の良い旭川に、総合的な環境科学を行うセンターを作る必要があると思っている。
 CS支援センター理事長 伊豆の住宅は、通常の住宅よりコストがかかる。どこからも支援を受けていないので、コスト負担は患者にかかってしまう。患者は裕福な方は少ないので、転地療養したい人の1割も手を挙げられない。転地への支援があり、転地のノウハウがはっきりすれば、転地療養は全国的に広がるし、もっと多くの人が入居できる。大勢の患者が転地して、その結果を“観察”できる機会を政策的につくることを考えていただきたい。われわれの試みを政策に活かしてもらえないかということを要望したい。
 CS支援センター理事 子どもへの化学物質過敏症の影響が心配。保育園や幼稚園からパラ剤を取り除く等は、すぐできるのではないか。
 厚労省 保育園について機会をとらえて普及啓発に努力したい。
 文科省 従来から普及啓発に務めているが、パラ剤、芳香剤については周知を図りたい。

 

「政府との話し合いに出て感じたこと」 須田 春海(CS支援センター理事、市民運動全国センター代表)

ある患者との関わり
 知人に患者がいる。彼女は化学物質過敏症という病名を北里大学からいただいた。それまで、原因不明の眩暈や体調不良に襲われ、体の器官のそこらじゅうが異常になり「全トッカエしたい!」と呻いていた。
 病名が付いたとき、なぜかほっとした。これで何かの対処方法が見つかるのではないかとも思った。健康保険も適用されるかと期待した。しかし、しかしである。このニュースをお読みの方にこれ以上の説明はいるまい。
 その彼女、病院に出かけるだけで大冒険。途中の乗り物、人との接触、何より病院内の空気。バリアが多すぎる。蛍光灯にも反応するようになると居場所が無くなる。そんな状態では「国会」で何か自分たちに重要な会議があっても出かけていくことが出来ない。
 そんな訴えを聞きながら、その方々の代理のつもりで化学物質過敏症支援センターの世話人(理事)に名を連ねた。
 発足早々、国会で何度か会議があった。バリアを乗り越え必死の努力で駆けつけた患者さんたちがたくさんいた。不幸なことに、自分たちの立場が理解されないこと、また日常での周りの了解が少ないことなどが重なり、なかなか「討論」がかみ合わない。
 そこで発見したことはただ一点。専門家がどのように分析しようが、お役所がどんな言い訳をしようが、明らかに化学物質に接触して体調を壊した一群の人々がいるということだった。

医者の立場、お役所の立場
 2〜3年前の話し合いは、慎重な言葉使い羅列と深刻な現状訴えが、ない交ぜになっている状態であった。
 お医者さんの立場は、病状はわかって原因は推測されても因果関係がはっきりしていないし、その意味で病名もつけられない、という人が多数であったであろう。それゆえ、経過を観察し研究を深める、ということ答えしか戻らない。
 お役所の立場は、科学的医学的に解明されていない現象について、いくら窮迫を訴えられても、政府としての対応は難しい。税執行の公平性の原則からしても、最低限専門家の合意がいる。専門家の研究を応援し究明を急ぐ、ことしか約束できない、となる。

市民の立場
 現実にそこに「病人」がいる以上、まず助けの手をお互いにさしのべ合わなければ、と誰でも思う。
 ?相談を互いに受けること
 ?避難場所を確保すること
 ?原因と思われる物質をとにかく減らすこと
 しかし、このことを実践するのは、大変な苦労がいる。さまざまな応援を得たいが、これが簡単ではない。その壁を乗り越え、旭川で、企業が実験的に建物を建設し提供することによって、入居患者の経過を観察する事業が、市役所・市民・医者の協力ではじまった。
 伊豆では、市民の資金によって、化学物質フリーゾーンに住居群を建設するプロジェクトが動き出した。いずれもはじめてのこと、試行錯誤の連続で、失敗の積み重ねが続くが、このままではどうすることも出来ない患者自身の窮状がエネルギー源になって、とにかく前に向かって動いている。

何が変わったか
 久しぶりに国会で省庁との話し合いに出た。この間、建築基準法の改正がなされホルムアルデヒドなど特定物質についての規制と新築住宅の換気の義務化がすすんだ。一歩前進ではあるが、肝腎の患者対策は「凍結」状態だ。何が変わったかといえば、「化学物質過敏症」とは、という説明は不要になり、未解明の部分を含め共通の理解がすすんだことだ。これはこれで素直に歓迎したい。
 しかしである。患者の日常は連続する。毎日が身体との対話であり、生活との格闘であり、人間関係の葛藤だ。化学物質過敏症という坩堝の中で攪拌され続けている。命は誰でも一つ、人生は一回きりだ。医者の解明を期待し、公平な役所の処遇を求めたりはするが、総てのペースがスローモーションに映るだろう。
 せめて、「病名のない病気」への対処法、明らかに社会的原因で生活が窮迫する人への救済法、を創り出したい、と思った。
 そして結論。もどるが、市民の助け合いは、頼りないところがあるがまた無辺際の良さもある。市民社会を強くすることが一番の近道でもある、と改めて感じた次第である。

 

>>このページのトップへ