6月1日、厚生労働省生活衛生課長名で、「シックハウス対策に関する医療機関への周知について(要請)」(PDF)という文書が、各都道府県などあてに出されました。
この文書は、医療機関が健康保険の範囲内の診療を行い、診療報酬を請求する際、請求書(レセプト)に記す病名として「シックハウス症候群」を使えることなどの周知を求める内容となっています。
この文書を出した事情について、同課の担当者に尋ねたところ「これまで病名の付与という要望がさまざまな方面から寄せられてきた。病気の有無については行政が決めることではないが、『シックハウス症候群』という病名のレセプトを認めないものではないことは、これまでも申し上げてきた。2年前からは、コードを付けた傷病名として収載しているが、周知されていなかったので、周知させるために文書を出した」旨の説明でした。
「シックハウス症候群(SHS)の診療報酬請求について、このような文書を出すのは、今回が初めてか」と質問したところ、「そうだ」との答えでした。
2002年に病名を収載
この文書中に書かれている「磁気テープ等を用いた請求に関して厚労省が定める規格および方式」の「別添3」とは、診療報酬の事務をコンピュータ処理するために厚労省が定めている「レセプト電算処理」の「傷病名マスター」と同じものだそうです。傷病名マスターでは、収載した傷病名一つ一つにコード(番号)を付けています。「シックハウス症候群」は、2002年6月1日に、このマスターに収載されました(マスターについては「診療報酬情報提供サービス」)。
厚労省保険局医療課によると、「レセプトに記載するのは、マスターに収載された傷病名でなければダメというものではない。ただし、提出されたレセプトについて、正しい診療かどうか審査する時に、一般的に使われていない病名だと審査が難しくなる。そこで、統一されたコードを付した傷病名を使うようすすめている」旨の説明でした。
一般的に、健康保険の範囲内かどうかは、病名ごとに決められているのではなく、それぞれの診療(検査、投薬、手術など)ごとに決められています。「シックハウス症候群」という病名でも、傷病名マスターに収載されていない「化学物質過敏症」という病名であっても、診療よっては保険の範囲内であるとの見解を、国は示しています(たとえば、国会答弁)。しかし、化学物質の負荷試験や、クリーンルーム用の着替えの服などは、保険の範囲外です。
SHS、CSに必要な診療の保険適用を
健康保険の範囲内と範囲外の診療が同時に行われた時に、範囲内の分だけ健康保険で賄い、範囲外の分だけ患者が費用を支払う「混合診療」は、現在の医療制度では認められていません(差額ベッドなどごく一部を除く)。その場合、範囲外の分も医療機関が負担するか、または、範囲内の分も患者が負担するか(自由診療)の、どちらかになります。
ですから、病名が「傷病名マスター」に掲載されたからといって、シックハウス症候群のすべての診療が、健康保険の対象になるわけではないのです。シックハウス症候群、化学物質過敏症にとって必要性が高い診療が保険の範囲内として認められない限り、その診療も含めて受診しようとする患者は、自由診療とならざるを得ないのです。
ですから、私たちの「病気を認めてほしい」「保険で受診できるようにしてほしい」という訴えは、単に傷病名マスターに病名を載せることだけではなく、この病気にとって必要性が高い診療を、保険の範囲内にすることも求めているのです。
化学物質過敏症、シックハウス症候群のように、医学界で見解が分かれているものの、大勢の発症者がいる場合、国は「病気の有無は行政が決めるものではない」という建前にこだわらず、一歩踏み出した対応をすべきと考えます。
それはそれとして、病名が傷病名マスターに掲載されていること自体は、社会的な認知への第一歩と言えなくもありません。この病気に無理解な医師や市民に対して「保険病名のリストに『シックハウス症候群』が掲載されている」と訴えることが可能です。
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