CS支援センターの活動から
会報「CS支援」第12号 (2003.4.25)

シックスクールを経験して(連載第1回)    
  (東京都調布市立調和小学校生保護者)

 

 東京都調布市立調和小学校で新校舎が建設されました。2002年7月、8月の2回にわたって室内空気濃度が測定され、8月の測定ではホルムアルデヒドは2カ所で、トルエンは11カ所で指針値を上回りました。しかし、濃度は下がるだろうとの見通しのもと、9月から授業が開始されました(以上の経緯は「調和小学校室内化学物質放散に伴う教育長のコメント」(2002年12月20日付)による)。その結果、正確な数は不明ですが、約2割の児童に健康被害が出てしまいまし
た。同校児童の保護者である足立さんに、このシックスクール問題の経緯と課題についてのご報告を、連載していただきます。

※この続きは、会報12号をご覧ください。


シックスクール 埼玉県、東京都が新たな取り組み
  網代 太郎 (CS支援センター事務局長)

 

 いわゆるシックスクール問題の予防や対策を目指し、東京都と埼玉県が相次いで、ガイドラインやマニュアルを発表しました。これまで、化学物質に特に弱い子ども(化学物質過敏症の子など)を持つ親の方々の個人的な努力によってのみ、この問題が取り組まれてきた側面が大きかったのですが、自治体による国に先駆けた取り組みにより、化学物質が子どもの健康へ及ぼす影響について認知が進み、子どもたちの健康が守られるようになっていくとともに、化学物質に特に弱い子どもの教育を受ける権利が守られるようになることが期待できると思います。
 埼玉県教育委員会は3月に、「一人一人の児童生徒が安心して学習できる学校環境づくりを目指して−県立学校のシックスクール問題対応マニュアル」を発表しました。
 「シックハウスやシックスクール対策が国会や県議会でも取り上げられ、適切な対策が早急に求められている」ことから、埼玉県教委は昨年5月「シックスクール問題検討会」を設置し、実態把握や今後の対応などについて検討を進め、昨年11月に「県立学校のシックスクール問題に関する取組方針」を作りました。今回のマニュアルは、この「取組方針」の「運用上の留意事項を解説したもの」とのことです。
 埼玉県は2001年2月に「埼玉県における県有施設・樹木の消毒等に関する取組方針」を定め、「県有施設において、病害虫等の発生の有無等を確認せずに定期的に薬剤散布を行うことは、これを行わず」、害虫等が発生した場合は基本的に物理的に駆除するよう定めるなど、これまでも化学物質問題へ独自の取り組みを行っています。

「CSの子に対応すべし」
 埼玉県教委による今回の取組方針やマニュアルは、これまでの行政によるシックスクール対策の中では、いくつかの点で、もっとも先進的な内容のものと言えます。
 第1点は、新たなシックスクール問題が起きないための「予防」と、「化学物質過敏」などの子どもが既にいる場合の「対策」を、きちんと区別しつつ、両方に力を入れていることです。
 第2点は、そのうえで、「化学物質過敏」などの子どもについて「保護者等と連絡を緊密にとりながら当該児童等が可能な限り学校生活を送れるよう、学校として対応可能な配慮をする」と明記し、学校による対応の必要を明記していることです。子どもはだれにでも教育を受ける権利があることを考えれば、これは当たり前のことです。しかし、当たり前のことすら学校現場で認識・実行されていないケースも目立っている残念な現状を考えれば、教育委員会がこう明記することは、たいへん意味があると思います。
 第3点としては、教育委員会と学校の役割について、それぞれ具体的に示したことです。たとえば、教職員は「(化学物質に特に弱い)当該児童生徒が学級内で孤立することのないように留意する」などとしています。

パラ材、多くのワックスが使用不可に
 同マニュアルの具体的な内容を見ると、たとえば、シックハウス症候群などの「予防措置」の「学校施設の維持管理」の項では、「殺虫剤、床ワックス、トイレの芳香・消臭剤等の薬剤や日用品を使用する場合、厚生労働省が定めたシックハウス症候群の原因物質として濃度指針値を定めた物質を含むものは、原則として使用しない」とあります。これにより、いわゆるパラ剤や、天然系などを除く大部分の床ワックス製品は、埼玉県内の学校では使用できないことになり、これはかなり画期的な方針と言えます。
 もちろん、厚生労働省が指針値を定めた物質だけが問題なわけではないので、「濃度指針値が定められていない化学物質も、できるだけ減らしていく」という段階まで、今後同マニュアルがさらに進化を遂げてほしいところです。
 また、「Q&A」のコーナーでは、「化学物質に過敏に反応する児童生徒の在籍する学校にあっては、原則として床ワックスを使用しない」と記しています。これが全国で徹底されれば、「ワックスを使わないか、安全なものに切り替えるよう学校側へお願いしているのに、聞き入れてくれない」という、以前から現在に至るまでCS支援センターにしばしば寄せられる“定番の”相談は、過去のものになるでしょう。

化学物質の子どもへの影響は成人より大
 埼玉県に先立つ今年1月、東京都健康局は、「化学物質の子どもガイドライン〜室内空気編〜」を発表しました。
 都は同ガイドラインを作った理由を「1997年のG8環境大臣会合における『マイアミ宣言』*以来、海外では有害な化学物質等から子どもを守るための動きが活発なのに対し、日本では子どもを対象とした健康影響調査や子どもが利用する施設の低減化対策などは、ほとんど実施されていないのが現状です。このため、化学物質による子どもへの影響を防ぐための独自のガイドラインを策定し、子どもたちが安心して生活できる社会の実現を目指していくこととしました」と説明しています。 
 同ガイドラインはまず、以下の理由により、子どもは大人よりも化学物質の影響が大きいことを強調しています。
 ○体重あたりで比較すると、子どものほうが多くの化学物質を吸収している。
 ○成長期の子どもは、化学物質の影響を強く受ける可能性がある。

化学物質は必ずある
 そのうえで、子ども(新生児から中学生まで)が利用する施設(保育園、学校など)の室内環境の化学物質(厚生労働省が指針値を決めている13種類)を減らすことを目的に、具体的な方法を示しています。主なものは、次の通りです。
 ○たとえにおいや刺激を感じなくても、濃度の多少はあっても室内空気に多くの化学物質が含まれているため、換気などを実行する
 ○殺虫剤、床ワックスなど、化学物質を大量に使用する業務の年間計画書を作成し、卒業式前日などに会場のワックス清掃を計画しないなど、作業時期や時間帯などに配慮する
 ○使用する化学物質の情報を入手する
 ○使用する教材に配慮する
 ○新築・改修工事に注意する
 ○室内空気中の化学物質を測定する
 ○子どもの状態を観察してサインを受け取る

「五つの約束」
 そして最後に、「より安全な室内環境を目指すための子どもたちへの五つの約束」を以下の通り掲げています。

 新たに増やさないために
 ○使わない:殺虫剤などの安易な使用は避ける
 ○持ち込まない:新たな発生源を加えないための検討

 今よりも減らすために
 ○追い出す:用途や利用状況に応じて換気する
 ○取り替える:揮発しない(少ない)ものとの交換
 ○なくす:発生源を除去するための検討

 同ガイドラインでは、ある施設で害虫駆除剤のダイアジノンを使用したところ、26日後の測定でも指針値を大きく超え、換気を実施して95日後に再測定してもほとんど変化がなかったことから、床の拭き掃除を繰り返した結果、153日後の測定でようやく指針値を下回った例も紹介されています。ふき取らなければ指針値を達成できなかったことを素直に解釈すれば、ダイアジノンはできるだけ使用すべきでないという結論になると思いますが(同ガイドラインにはそうは書いていませんが)、一方で、代替の農薬なら良いのか、と受け止められかねません。
 最後の「五つの約束」の精神にもとづき、「13物質以外も、できるだけ減らしていきましょう」という表記があると、なお良かったのではないかと思います。
 *マイアミ宣言「われわれは世界中の子どもが環境中の有害物の著しい脅威に直面していることを認識している。(中略)有害物に関する情報が十分でないときは、われわれは予防的な原理または予防的アプローチに則り、子どもの健康を守ることに同意する」


家族の目から見た化学物質過敏症
  (患者の夫)

 

 CS支援センターが1月に行ったシンポジウム「CSになった歯科医たち」で、患者の家族の立場から、CSについての体験や問題点をご報告くださった川上さんより、本誌面でもご報告いただきました。

※この続きは、会報12号をご覧ください。


出版物紹介 『ある日、化学物質過敏症』を読んで
  (主婦)

 

 CS支援センター会員の山内稚恵さん(京都府)が、CS発症後の7年間の体験をまとめた『ある日、化学物質過敏症』が三省堂から発刊されました(税別 1,400円)。山内さんは、「周りの人に理解されない窮状はどの患者でも同じであり、私を一例として、患者の置かれた状況を社会に知ってもらいたい」(あとがきより)と、執筆されました。この本のご紹介を、山内さんの元教え子の方にお寄せいただきました。
 CS支援センターでもこの本を実費(送料別)で販売しますので、ご希望の方はご連絡ください。

※この続きは、会報12号をご覧ください。

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