国土交通省の社会資本整備審議会は1月30日、シックハウスの予防のために、ホルムアルデヒドとクロルピリホスを発散する恐れがある建材の使用を制限すべきとの答申をまとめました。答申に基づき、同省は今国会に、建築基準法改正案を提出するとのことです。
答申は、同省などが2000年度に行った住宅の実態調査結果から「新築住宅等の中には化学物質の室内濃度が厚生労働省の指針値を超えるものが依然として多数存在」しているとの認識に立ち、抜本的な改善のために新たな規制が必要だと指摘しています。
新たなシックハウス被害の相談がCS支援センターにも寄せられ続けている中、シックハウス予防策の一つとして、法規制は不可欠と言えます。
どのような法規制を行おうとしているのか、答申の主な内容を、ここでご紹介いたします。
濃度規制は行わず
答申によると、規制によって実現を目指す室内濃度のレベルには、厚生労働省の指針値を採用するとのことです。ただし、
- 指針値が設けられている13物質のうち、各種の実態調査で、実際に濃度超過が報告されているのは、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、クロルピリホスおよびテトラデカンの6物質である
- これら6物質のうち、ホルムアルデヒドとクロルピリホスは、建築材料等の発生源のデータや、発生源の状況から室内濃度を予測する理論について、他の物質に比べ調査研究が進んでいる
・・・などの理由により、規制する物質は当面、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの2物質とし、トルエン、キシレンなど他の化学物質については、さらに調査研究を進め、規制対象への追加を検討するとしています。
厚生労働省の指針値を採用すると言っても、この指針値に基づいて室内濃度を規制するのではありません。
この答申は、
- 室内濃度は気象条件等により変動するので、平均的に指針値を超える建物でも、測定時の条件次第で基準を満たす場合も生じる
- 室内濃度の測定は、建材規制に比べて大きなコストが必要
・・・として、室内濃度による規制でなく、建材や換気設備等によって規制すべきだとしています。
また、規制の対象は、住宅、学校等、全ての建築物の居室としています。
建材と換気設備等で規制
ホルムアルデヒドを発散する恐れがある建材は、「居室を面的に被覆している主要な部分(たとえば、内装材、押入、建具等)」が規制対象になります。そして、発散量に応じた建材の等級と、その部屋の換気設備(または機密性・換気量)の組み合わせ等に応じて、建材の使用面積を制限するとしています。
ただし、発散量が少ない古い建材や、特殊なコーティング等により発散が抑制されている建材の採用、または、特別な空気調和設備の設置により、濃度超過の恐れがない場合は、規制の対象外になるとのことです。
また、クロルピリホスを発散する恐れがある建材については、「居室の周囲の部分のうち、壁、柱等の構造体、廊下、床下、天井裏、小屋裏等を含む広範な部分」を対象に、使用を禁止するとのことです。
民主党の法案と比べると
答申に沿って建築基準法が改正されても、規制されるのは当面2物質だけであることなどから考えて、シックハウス被害がただちになくなることはないでしょう。しかし、法規制がまったくない現在と比べて、被害発生の予防にそれなりの効果が期待できると思われます(なお、答申は、新たな被害の予防が目的とみられ、すでにCS等を発症している方については、別の施策が早急に必要であることは言うまでもありません)。
法規制に実効性を持たせるには、現場でチェックできるかどうかが大きなポイントです。前回の会報で、民主党のシックハウス対策法案をご報告いただきました。同法案では、住居については新築時における濃度測定を義務付け、加えて、一定規模以上の公共建築物には定期的な濃度測定を義務化しています。濃度の超過があった場合はハウスメーカー側等に改善を求められます。チェックの方法は、比較的明瞭です。
これに対し、答申に沿った建築基準法改正の場合、どんな等級の建材を何m2使ったかを、現場でチェックすることが難しくなる場合も予想されます。たとえば建材に等級が印刷されていても、仕上げにより見えなくなります。接着剤も、どのようなものが使われたかユーザーが調べることは極めて困難です。正確なデータを積極的に公開するというメーカー側の“良心”が頼りの法規制なら、心許ないです。
答申ではまた、ホルムアルデヒドの揮発を抑制するコーティングがされていれば規制対象から外すとしています。これは、結果的にコーティングを奨励することになりかねません。コーティング材によっては、当面は規制の対象にならない化学物質が揮発し、シックハウスを引き起こすことも考えられます。
答申は、濃度規制について「社会的コストが大きい」としています。現状で室内空気濃度を測定する人の大部分は、シックハウス被害を受けた方々でしょう。被害者は被害が出た家以外に住める家を確保しつつ、治療や空気測定などの対策に追われ、莫大なコスト負担を強いられます。つまり現状は、本来必要な「社会的コスト」を被害者だけに押しつけているとも言えます。
また、被害発生後の測定では、建物自体が原因か、後で持ち込んだ家具等が原因か、はっきりしないという問題は、答申に基づく法規制でも解決されません。
最初は簡易的な測定を行い、問題になりそうな場合のみ本格測定するなどにより、空気測定を義務化してもコストを減らすことは可能です。課題である、気象条件等による濃度変化の扱い方の研究も進んでいます。
法規制がより有効なものになるよう、今後提出される法案が、答申よりさらに充実することを望みます。
農薬は早急な規制拡大を
答申によると、クロルピリホスが事実上、使用禁止になるのは、評価できます。すでに、業界がシロアリ防除目的でのクロルピリホスの使用自主規制を決めていますが、法律で規制する意味は非常に大きいです。
ただし、代替品のクレオソートを使ったシロアリ防除による被害等が増えているとの報告もあります。早急に規制の網を広げていく必要があると言えます。 |