会報第4号(2001.12.25) 

 

いわゆる杉並病の法的解決〜公害等調整委員会の審理について
   森上 展安さん
  (杉並中継所健康被害原因裁定申請事件申請人団代表、CS支援センター監事)
 

 いわゆる杉並病の法的解決については、国の公害等調整委員会(公調委)に健康被害者ら18人が、被害が不燃ごみ杉並中継所の操業が原因である旨の裁定を求めて平成9年5月に申請をしており、来年早々にも結審されそうである。この公調委の裁定は、行政が全く対応しないまま放置しているに等しい、いわゆる杉並病被害者のみならず、今も発生し続けている被害者や新しい被害について重大な影響を与えるものだ。
 公調委は、公害紛争解決の専門機関として最近でも豊島産廃事件、小田急騒音事件などで成果を挙げており、特に以下の2点で公害事件解決上重要な位置を占めている。
 すなわち、国の職権で証拠調べをしてくれること、さらに、公開の裁判形式で進められることの2点である。第1点は、調査費が数千万〜数百万を要する現状では、公害の被害者が自ら証拠調べをする一般の訴訟は事実上不可能である。第2点は、マスメディアや事件に関心を持つ人々に審理が公開され公正な審問が期待できるし、世論にアピールが出来る。
 私共はこの公調委に「原因裁定」の申請をした。申請の仕方としては「責任裁定」などの申請も出来たが、あくまでも責任を問うのでなく、中継所を止めなければ被害がさらに深刻化することを憂慮し、「原因裁定」でともかく中継所が健康被害の原因であるとの裁定を法的に確定することを重視したからだ。

 第一線の疫学者が“中継所はクロ” 
 このように公調委による法的解決を求めたのだが、審理は必ずしも順調に進まなかった。申請人にとって最も不可解だったのは、公調委が依頼した専門委員による本件事案への「報告書」(平成12年9月付)の内容であった。そもそも専門委員制度は、文字通り専門家の見解を審理の助けとする制度だが、作成された報告書は、申請人の主張を一顧だにしない、これ以上ないほど相手方すなわち東京都の主張と寸分違わぬものであった。もちろん、その見解が「専門家」として妥当なものならば都の主張も妥当と言える。しかし、例えば、大気の分析結果から私共が健康被害を受けたころのベンゼンその他の値が想像を絶する異常な多さであった点をとらえて、こともなげに考察の対象から外す判断をしている。ことほど左様に恣意的な見解を平然と出してくる専門委員およびその報告書は、私共にとって公調委に対する不信感を募らせるに十分なものだった。

 都側参考人も中継所の関与認める! 
 しかし、平成13年になって、私共は津田敏秀・岡山大講師(公衆衛生)を参考人として立て、杉並区による疫学調査結果(平成11年9月)での健康被害と中継所の因果関係認定が学問的に正しいこと、しかし、「最近1年以内は沈静化している(調査当時)」という杉並区調査のもう一つの結論は疑わしいことを、疫学の世界的な研究水準に照らして証言していただいた。これに対して、都側が立てた国立公衆衛生院の丹後俊郎参考人は、その論理構成に若干の違いはあるものの、杉並区疫学調査の結論である中継所と健康被害の相関関係についてこれを認め、一方で「1年以内の沈静化」は認められないとした。すなわち申請人側参考人の津田氏と同じ結論を出したのである。
 このことは、都側は全く誤算であったようで、その前後に出された都側の最終準備書面には、この丹後参考人の見解が全く無視されている。残念ながら、個々の健康被害と中継所の排出物とを結ぶ病因物質の判定は、現在の科学技術の水準では困難と言われるが、疫学理論による因果関係で中継所がクロだ、と公調委の公開の席で日本の疫学理論の代表的研究者が、しかも申請人側参考人として証言したことは極めて重大なことだ。
 私共はさらに分析科学者に参考人に立ってもらって、都調査委の結論(平成12年3月)の硫化水素原因説、拡散希釈説への反論、都のこれまでの分析そのものの反科学性も陳述してもらう。
 加えて、公調委は3人の裁定委員により審理が進められているが、実はこのうちの一人、長崎護委員は、この間の十数回にわたる審理の中でたびたび都側に立った質問を証人、参考人に投げかけている。実は彼は都衛生局の元幹部であった経歴を有しており、かつ、光化学スモッグ事件当時の都側の当事者で、被害者を「集団ヒステリー」として心因性と決めつけた当人である。その後の歴史がその不当性を明らかにしているが、こうしたおよそ科学的見識のない人物が裁定委員の1人として事件に裁定を下すのは、公調委の本質的機能を損ない、真理の追究を妨げる恐れが強い。
 私共は、この長崎委員の忌避申立を行い、もはや明らかになった中継所の有害操業の一刻も早い停止を行うべく公調委の正しい裁定を待ちたいと考えている。

 

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