会報第1号(2001.5.17)

 

文部省からヒアリング
   学校環境中のさまざまな化学物質が、児童生徒、教員に健康被害を及ぼす、いわゆる「シックスクール」問題について、民主党と「市民がつくる政策調査会」が共同で、文部科学省担当者からのヒアリングを行った。
 この席で進行役を務めた櫻井充・参議院議員によると、これに先立つ2月15日にも同党がヒアリングを行ったが、その時は文部科学省側から、ほとんど内容のある回答はなかったという。しかし、今回は、「不登校」の生徒児童たちの中に、化学物質が原因となっている子供がどれくらいいるのか、調査を行うことを明言するなど、一定の成果があった。

 教育現場への指導 
 最初に説明した、スポーツ・青少年局学校健康教育課長補佐によると、「文部科学省が現在とっているシックハウス対策」は以下の通りであった。
・今年1月29日付で各都道府県教委等に対して、昨年6月および12月に当時の厚生省が策定した室内空気中化学物質の濃度指針値について周知した。併せて、学校衛生活動の推進など適切な対等を取るよう、文書によって指導した。
・文部科学省が所管している財団法人日本学校保健会に委託して、学校における化学物質の室内濃度について、現在実態調査を実施中。その結果に基づいて、平成4年から示している「学校環境衛生の基準」(局長裁定)を改訂する作業に入る。
・化学物質にごく微量でも反応する過敏症の児童生徒については、その原因となる物質や量、当該児童生徒の症状などがさまざまであることから、各学校において個々の児童生徒の実情に応じ、養護教諭を含む教職員、学校医等が連携をして個々に配慮を行っていただくよう、各種会議等を通じて指導するとともに、1月29日の文書でも、その点の配慮を指導した。
  化学物質過敏症で、在籍している学校で教育を受けることが困難な状況の児童生徒については、次のような対応が考えられる。
 まず、症状によってやむを得ず、教育委員会が指定した小中学校への通学が困難な場合には、保護者の申し立てにより、教育委員会が相当と認めた場合には、その学校の指定を変更することが出来る制度があり、この制度を活用する。
  病状により長期にわたり医療または生活規制を必要とする場合には、養護学校に転学して、特別な配慮のもとに教育を行うこととされ、特に、通学して教育を受けることが困難な場合には、養護学校の教員が自宅等を訪問して教育を行う仕組みがあり、これの活用も考えられる。これについても1月29日付の文書でも指導した。

 施設関係での対応 
 次に、文教施設部施設企画課施設環境対策専門官が、施設関係でのこれまでの取り組み状況について説明した。
 同専門官は「シックハウス症候群は、原因や対策に関して解明、検討すべき内容が多方面にわたっており、厚生労働省を中心にして対策を進めている。学校施設は設置者の都道府県、市町村が、地域の実情や個々の学校の特性を考えながら整備を行う。文部科学省としては、学校の設置者がシックハウスへの認識を高めるよう、情報や対処の方法などを、設置者に丁寧、迅速に提供していくことが大きな役割だと考えている」と前置きしたうえで、以下のように説明した。
・「環境を考慮した学校施設の推進」という調査研究を平成7、8年に実施し、それぞれ報告書をまとめた。
  平成8年3月の報告書には、有害な汚染物質の発生がない、もしくは少ない建材の採用を盛り込んだ。これについて、平成8年5月、教育委員会等について通知をした。
  また、平成8年度の調査研究の報告は9年3月にまとめ、この中でも人体に安全な建材の選択をすること、具体的にはノンホルムアルデヒドの例を盛り込んだ。また、換気を充分に行うことも盛り込んだ。これについても、9年8月に教育委員会等に配布した。
・学校施設の計画・設計上の留意事項を示した「学校施設整備指針」を、この3月に改訂した。この中で、建材等について充分配慮することを掲げた。個々の部位の計画・設計の留意事項として、内部仕上げも、有害な、室内空気を汚染する化学物質の発生がない、もしくは少ない建材を採用し、施工手順・方法に配慮すること、また、換気口を設けること、また、学校用家具も有害な、室内空気を汚染する化学物質の発生がない、もしくは少ない材料を採用すること、また、換気設備を設置することが有効である等の内容を盛り込み、各都道府県教育委員会等に通知した。
・設置者の認識を高めるために、繰り返しこの問題に関し指導、周知を図っている。昨年6月に公立文教施設環境技術者連絡会議(都道府県と政令指定都市の技術者が対象)で、化学物質を含む建材をなるべく使わないようにし、工事完了後は充分換気することについて資料を配付して説明。今年2月の説明会(都道府県教育委員会等の施設主管課が対象)でも、1月29日の通知についてさらに周知を図った。3月には教育委員会等の担当者会議で、通知徹底とともに、昨年6月の会議の資料を再度配布した。

 補助制度における対応 
 次に、初等中等教育局施設助成課課長補佐が、校舎など公立学校施設の補助制度における対応について説明した。
 それによると、校舎などの新設、建て替え、改修に対して国の補助が出るが、シックハウス対策として汚染物質の少ない建材、工法を採用してコストアップした場合でも、補助の対象にできる。今後、シックハウス対策の校舎建設が増えていっても、現行の補助制度で対応が可能なので、今後、より弾力的に対応していく……とのことであった。

 「現場に浸透していない」 
 以上の説明に対し、参加者からは「文部省の通達が、教育委員会や学校などの現場まで徹底されていない」との指摘が多く出された。
 これに対して、施設助成課課長補佐は「工事に関わる関係者は、教委や設計事務所、工事をする方、先生方等、非常に多い。その方たちに、この問題の対策の内容が行き渡っていく過渡期ではないか」との見解を示した。櫻井議員は「校舎の建設などは地方自治体の仕事だが、啓蒙するのは文部科学省の仕事。これを国家の問題だと認識して、対策のための予算をもっとつけてほしい」と注文した。

 市教委が認めても都が反対 
 また、重症のシックハウス症候群で苦しむ中学生の娘を持つ、東京都八王子市の母親は、「養護学校からの訪問教育をずっと希望しているが、八王子市教委が理解を示してくれているにも関わらず、東京都で受理されない」と訴えた。この母親は、文部省が各施策を実行するためには、教員等の人材を確保するための予算の措置が不可欠だと強く訴えた。
 CS支援センターの広田しのぶ理事は、シックスクールについて子供本人と母親が書いた手記3通を読み上げ、化学物質に苦しむ子供たちの姿を生々しく伝えた。
 その中で、岩手県雫石町では、さまざまな理由で登校できない子供を対象に、子供が住む地域の学校との連携を保ちながら、訪問教育をしているという、独自の新しい試みについて紹介された。

 調査実施を明言 
 また、「不登校の子供たちの中でどのくらいがシックスクールによるものか、調査する予定があるのか」との質問に対し、学校健康教育課長補佐は「シックハウス症候群は、厚生労働省で研究が進められており、病気自体の解明が進まないと実態調査というわけにはいかないというのが原則かとは思う。しかし、みなさんも苦しんでいる実態もあるし、今日いろいろなお話も聞かせていただいたので、調査する方向で今検討している」と明言した。ただし、具体的な調査方法は、まだ検討中という。
 また、「学校衛生の基準」の改正内容について、学校健康教育課長補佐は「厚生省が指針を示している化学物質だけに限らず、全体的な改訂作業も進めている。専門家に集まっていただいて改訂する方向だ」と述べた。
 私は、ワックスを使わない校舎の維持管理と、農薬をつかわない校庭の樹木の「害虫」駆除法について、文部科学省で研究してほしいと要望した。
 最後に、学校健康教育課長補佐は「実際に皆さんから直接病状等について話を聞く機会は私は初めてだった。今後われわれがやっていかなければならないことの参考にさせていただけたと、非常に良い時間だったと思っています」と話していた。

 

>>このページのトップへ